2008年05月20日

乗り物酔いはなぜ起こる?

 ゴールデンウィークはいかがおすごしでしたか? 
遠出をされた方も多いことでしょう。大渋滞に巻き込まれ、数時間車内に閉じ込められた、という苦い思いをされた方もいるのではないでしょうか。

 遠出には乗り物がつきもの。そして乗り物には、乗り物酔いという心配があります。せっかくの楽しいひとときを、その不快さでつらい思い出に変えたくはないものです。
 乗り物には、酔いやすい人と酔いにくい人がいます。この違いはどこにあると思いますか? それは、乗り物に対する「限界」の違い。その「限界」は、内耳・目・心・前庭小脳の4つが決定します。
 心身の状態が乗り物酔いに大きく影響していることは、多くの方も知っていることでしょう。寝不足だったり、疲れ気味だったり、あるいは乗り物酔いに過度の不安を抱いていたりすると、酔いは増悪するものです。

 一方、ほとんど知られていないのが、前庭小脳の大切さ。前庭小脳とは小脳の一部であり、小脳は平衡感覚を調整する働きを担っています。その小脳に、内耳や目など体の各部から入る情報を伝えているのが前庭小脳です。
 乗り物が起こす揺れや振動、スピードなどの刺激は、人の体にとって、実はとても強いものです。その刺激は、内耳や目などから脳に送られますが、刺激が強すぎて前庭小脳の処理能力を超えてしまうと、さらにその情報を受け取る小脳や大脳は混乱し、自律神経がバランスを乱します。すると、吐き気やめまい、頭痛などのつらい症状、すなわち乗り物酔いが起こるのです。つまり、乗り物酔いは、脳の混乱が体に現れている状態なのです。
 ただし、前庭小脳には、内耳や目から入る強い刺激にブレーキをかけ、適度な状態に調整するという働きがあります。とはいえ、このコントロール力にも問題があります。人によって、その能力が違うのです。コントロール力が適度な人は乗り物に酔いにくく、強弱をうまく調整できない人は酔いやすいという個人差があるわけです。
 ちなみに、この前庭小脳の働きは3~4歳でできあがります。ですから、乳幼児のころは乗り物に酔うことがほとんどありません。
 一方、4歳を過ぎたころから乗り物酔いをしやすい子が出てきます。これは、揺れやスピードなどの刺激に対し、前庭小脳が上手に対応できないことが原因の一つです。ただし、ふつうは高校生のころには乗り物酔いをしなくなります。繰り返し乗るうちに、前庭小脳が訓練されていくためです。

 「乗り物酔いは体質だからしかたがない」と諦めている方は多いのではないでしょうか。しかし実際に乗り物酔いは、心身の状態や前庭小脳の働きに左右されているのです。
 なお、心身の状態を万全に準備して臨むのに、いつも乗り物に酔ってしまうという人は要注意。内耳や小脳になんらかの病気が隠れているのかもしれません。めまいを専門にする医師に一度相談してみることをお勧めします。

2008年02月05日

小林一茶と耳鳴り

 夜の霜 耳はしんしん 蝉の声  

 これは俳人小林一茶の句です。
 一茶は50歳を過ぎて結婚し、子供たちは早世しやがて妻も病死してしまいます。
このような境遇に加え一茶は血圧が高く、めまいと難聴を併発していたとされています。 
冬の静けさのなかにありながら、まさに蝉の「ジージー」といったやかましい音が耳元に響きわたる、一茶の苦しみと孤独がこの句に表れています。
 耳鼻科診療において耳鳴りはしばしば遭遇する疾患です。しかし、「命には別状ない」「年のせい」などと片付けられることがほとんどです。一般に循環改善剤、末梢神経修復剤などの内服治療が行われますが、効果はほとんどありません。

 そもそも耳鳴りは、誰にでもあるものです。通常はきわめて小さいため他の音にマスキングされ自覚していません。 一口に耳鳴りといっても、一時的で気にする必要のないものから騒音暴露、メニエール病などの内耳疾患、聴神経腫瘍の初発症状、脳梗塞・脳出血の前兆までさまざまです。蝸牛神経(聴神経)の異常興奮がその病態です。さらにやっかいなのは、内耳性と中枢性(頭鳴り)耳鳴りの鑑別が困難であることです。患者さんは耳鳴りと訴えていてもしばしば頭鳴りであることが少なくありません。  また、顎関節症と耳鳴りの関係については古くからその関係が指摘されています。 顎関節の上にリンパ液に包まれた内耳が存在しており、機械的な刺激を持続して受けるため、両者は密接な関係にあります。  顎関節症は、「顎関節痛、雑音および異常顎運動を単独または併発して経過する非感染性、顕著な炎症病態を欠くもの」につけられた名称で、その原因については咬合異常、筋性、神経性、心因性など多くの説があげられています。
 一般に、耳鳴りの治療はさまざまですが、軽快することはきわめて稀です。最近は、耳鳴り自体は治まらないので「気にしないように」との観点から精神心理療法が行われたり、他の音で耳鳴り自体を遮蔽する療法まで登場しています。
 さて、あなたの耳鳴りは?

2008年01月08日

日本の未来を変えられるか ~すべての子どもの幸せのために~

 ついこの間のことです。私が病院から出ようとすると、小さな女の子が私の名前を大きな声で呼びながら、母親の手を振り切って駆け寄ってきました。息を切らせながら走ってきたその子の顔を見たとき、「あぁ、あの子だ」とすぐに気がつきました。  彼女は生まれたときからの先天性高度難聴でしたが、いま、健聴児とまったく変わらない様子を目にして、改めて子どもの成長ぶりに驚かされました。

 私が新生児聴覚検査にかかわってから、早くも8年の歳月が経ちました。平成10年、新しい難聴検査装置が日本に導入され、新生児聴覚検査事業が開始されました。 現在、新生児全員を対象としたスクリーニングの難聴検査が可能です。多くの問題を抱えてはいますが、さきほどのような元気な子を目にすると、「難聴は乗り越えることのできる障害」であると実感します。  

難聴は目に見えない障害です。周囲がその子の難聴に気づくことなく、放置されてしまうと、人格形成に影響をおよぼすことにもなります。しかし、早期発見・早期診断により適切な療育がなされれば、健聴児と同様に成長・発達することが可能です。難聴があってもなくても、基本的な育児に違いがあるわけではありません。最も大事なことは、その子に合ったコミュニケーション方法を見つけ選択していくことであると感じています。  

医師のみならず、看護師、言語聴覚士、保健師、保母、学校教育者(聾学校教員、難聴学級)、行政官など、さまざまな専門家が小児難聴の診断・治療・療育について検討し、実効性のあるケアシステムを作らなければなりません。医療の進歩を止めることはできません。知れば知るほど迷うことにもなります。多岐におよぶ専門家がかかわることになるので、よく相談し、相互に意見を反映させながら、それぞれの役割を遂行していかなければならないと考えています。

  ところで皆さんは、電話を発明したグラハム・ベルが難聴だったことをご存じですか? そして彼の奥さんも同じように難聴だったことを? グラハム・ベルは1898年に夫妻で来日され、京都と大阪で小児難聴への取り組みの重要さを訴え、同時に、手話だけでなく口話も大切と講演されました。へレン・ケラーにサリバン先生を紹介したのはこのグラハム・ベルです。今年は日本にグラハム・ベルが来日して110周年です。 

すべての子どもに幸せな未来が訪れることを願ってやみません。

2007年12月04日

小児病院での10年

小児病院に勤務して早いもので10年を越え、医者人生の半分以上が小児病院勤務となった。しかしいまでも、小児との接し方はかなり苦手である。当初は大学の医局から派遣されたいわゆる派遣医者であり、そのときどきの医局の事情にも左右されるが、長くて2年の派遣生活だからと気軽な気持ちでいた。途中で海外へ行き大学へ戻ったが再び小児病院勤務となり、派遣からステップアップ? となった。

小児病院に勤務してよかったことは、なんといっても、毎日が未知との遭遇であることだ。たとえば肥満の子供にいびきや睡眠時無呼吸が多いことは容易に想像できるが、鼻づまりもないやせ型の子供が著明な睡眠時無呼吸を呈していたら、その原因は……? 答えはあごの回転異常にあった。病態は成人とはまったく異なり、まだまだ未解明なことも多く、その追及に困難が伴うことも多いが、この仕事にはやりがいがある。昨今社会を賑わせている小児科医不足の影響はここではあまり感じない。当たり前であるが、小児病院は所属する小児科医が約100名と多く、誰かしらに相談すればたいていの問題は解決する。

一方、小児病院に勤務してつらかったことであるが、これをあげると枚挙にいとまがない。勤務先は三次医療病院に指定されており、夜間の耳痛などは総合診療科が診察してくれるのでよいが、外傷となるとそうはいかず、耳鼻科2人体勢での夜間救急対応はつらい。また、小児といっても平均受診年齢は3歳で、子供の所見をとるのもまた一苦労である。さらに両親からの状況聴取が大変で、手術などとなった場合、両親で意見が分かれたりするともうどうにもならない。社会状況を反映してか、外来では説明と同意にかなりの時間が取られる。昨今の小児科閉鎖の影響はかなり大きいし、単に小児というだけで厄介だということからの紹介もあとを絶たない。医療環境の変化を如実に受けている。

「病診連携」という言葉を聞いて久しいが、いままさにこの重要性をひしひしと感じている。真の意味での連携が活発に行われ、役割分担がきちんとされれば、もう少し小児医療もなんとかなるのではないかと感じる。医療者側にも患者さん側にもまだまだ課題は多い。私自身めまいを感じるぐらいだ。さて診断は?!

プロフィール

小児病院勤務医師。

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